『魔笛』

尊敬する同僚が教え子と共に『魔笛』を上演するので,会場に駆けつける。
なぜ『魔笛』かというと,登場人物が多いからだと思う。
当然オーケストラは使えないので,伴奏はピアノとフルート,ピッコラのみ。
若い頃,パリにはピアノ一台でオペラを上演する専門の小屋があった(収容人員は50人程度だったかしら)。それにブッフ・デュ・ノールで見たピーター・ブルック演出の『ペレアスとメリザンド』もピアノ一本だった。
そういうわけか,今回の『魔笛』もとても懐かしく観劇した。最初はあれやこれや,粗が目についたのだが,演じる若者も会場の励ましに満ちた拍手に乗せられて,段々と調子が出て来たようだ。全体としては素晴らしい出来映えだった。舞台では何が起こるか分からない。舞台ってやっぱり恐ろしい!
いつものことだが,音楽への情熱と,学生さんへの愛情なしには,これほど素晴らしい舞台を作ることはできなかっただろう。指導された方が演出も担当されたようだ。演出もよかった。予算が限られているからこそ,色んなアイデアがわいて来たのだろう。とても字幕なんか出せないので,事前に日本語のナレーションを入れておられた。苦肉の策なのだろうが,素晴らしいアイデアだ。観客にも音楽にもとても親切なアイデアだ。なにせ,パリでラモーやリュリーののオペラに字幕がつく時代である!字幕がないこと,舞台にそそぐ視線を邪魔するものがないのは,やはりあるがたい。
帰り道の途上,職場の理事と立ち話。彼とはここ数週間お金の話ばかりしているのだが,さすがに今日はそんな話題は出なかった。これも音楽の力かも。