ラウル・ルイス『ミステリーズ』

ラウル・ルイスの『ミステリ―ズ』を見る。
その美しさ,スケールの大きさに圧倒される。ほぼ全編が室内空間で展開されるのだが,ルイスのカメラ・ワークの下で,彼の演技指導を受けた俳優が狭い空間の中で言葉を交わし,移動し,視線を動かしていると,せまいはずの室内空間が,いくつもの襞,深淵をもつ多次元空間に見えている。
4時間半の大作を簡潔に要約するのは難しいけれど,この映画では人生の縮図のようなものが繰り返し,繰り返し,物語られる。おそらくこの点に,室内空間から出ることがないほとんどないこの映画に,観客はとてつもないスケールの大きさを感じるのだろう。
人生の縮図とは乱暴に要約すると,愛する人との出会い,別れ(愛し合う二人が死別することもあれば,すれ違いだったり,片思いに終わったり... 色々だけれど別れにてしまうことには違いない),別れがもたらす喪失感(悲しみであったり,憎しみであったり,これも色々なヴァリアンとがあるだろう)のことだ。そして,そもそも人生とは<欲望と喪>を縦糸と横糸にして織りなされるタペストリーでなければ,何だろう?
この映画では,さまざまな登場人物が異なる時代に異なる国・場所で,これら3要素が織りなす基本的には同じ物語をひたすら生きる(18世紀後半から19世紀前半のヨーロッパの貴族階級が中心の物語なので,登場人物は<生活したり>,<働く>必要がないので,人生の本質にどっぷり向き合うことができる。まあそれはそれで大変だとは思うけれど,羨ましくもある)。
観客はこれらの物語が作り出すうねりに,ただただ身を任せ,その谺,反響に耳を傾ける。それが至福の時間であることは言うまでもない。
映画だけが表現できる美しさ,ヨーロッパ文化の底力(ルイスはチリ出身の監督だけれど),あるいは物語の持つ力に打ちのめされたい方は必見の映画だと思います。