『シティのところにようこそ』

友人からDVD版を借りていたので,カッド・メナール,ダニエル・ブーン主演の『シティのところにようこそ』(Bienvenue chez les Ch'tis)(ダニエル・ブーン監督)を見る。
フランスの郵便局で管理職をしている男が妻から執拗に迫られて,コート・ダジュールへの転勤を目論む。どうしてもうまく行かないので,最後には障害者だと偽り,ようやくコート・ダジュールへの転勤が決まるのだが,後一歩の所で不正がばれて,フランスの北部に飛ばされてしまう。ところが,単身赴任のおかげで深刻な倦怠期に陥っていた夫婦仲も持ち直し,職場の部下とも仲良くなる。果てはかつては恋人同士だった2人の職員の仲まで取り持ち,2人は晴れて結婚する始末。3年後には部下,地域の人々に惜しまれつつ南仏に転勤して,すべてハッピー・エンドというお話。
出てくる人はみんないい人で,ハッピーエンドだし,少々退屈な映画であることは確か。まあ,日本でお正月とお盆に公開されるサラリーマン映画みたいなもんでしょう。作品では駄作と評してよく,中身もフランス人にではなく,日本人に受けそうなお話だ。しかしこの駄作が,数年前にはフランスでは記録的な大ヒットを飛ばしたというのだから,映画って面白い。
ただし,今日のフランス社会のネガとして見ると,この駄作も,一般的なフランス人が何を求めているかを教えてくれる,とても興味深い資料であることには違いない。和気あいあいの職場,愛し・守るべき家族と家庭,平凡な毎日,ここには今のフランスを襲う失業も,人種差別も,国際的な地盤沈下も,不倫も,都市生活のストレスも,田舎暮らしの孤独もない。アラブ人も,黒人も見えない,映画に登場するのは半公務員(郵便局員)と退職者ばかり,かろうじて主人公の奥さんが南仏の田舎の眼鏡屋さんで働いているくらい。ここでは現代のフランス社会,というかグローバル化する社会ではもはや失われてしまったのどかな「みんな仲間」(entre soi)意識が漂う。ジャック・アタリがいうこところの「だれもが放浪者(nomade)」とは究極の社会が描かれている。だからこそこの映画がヒットしたのでしょう。フランス社会の保守性がこれでもか!というほど詰め込まれている点では,興味深い映画かも。
逆に言えば,あの我がままで,革命好きのフランス人をここまで保守的にさせてしまうほど,グローバル化する現代社会って,先進国の普通の人には住みにくいっていうことなんでしょう。
データベースで調べた限り,日本では公開されていない模様です。