美は女の武器


旅先でダイ・シージエの『バルザック小さな中国のお針子』(Balzac et la petite tailleuse chonoise)を読む。
文化大革命下の中国,インテリ(医者,歯医者)=人民の敵の子供として内陸部の人里離れた農村に送られた少年(17〜18歳)たちと,彼らと知り合う美人のお針子の物語。文明的な生活の対極とも言える中国奥地の農村で再教育という名目で,苛酷な労働の日々を送る少年二人の物語なのだから,重苦しい雰囲気になりそうなのだが,読後感はとてもさわやか。
それは話者がとる現実との距離感が絶妙だからなのだろう。その距離感が希望と,明晰さを産み出している。
また,大革命の影響でほとんどフィクションというものに触れたことがない二人が,映画,小説を発見していく様も読んでいて心が躍る。この小説は物語の力を教えてくれる物語でもある。物語に触れることで,少年たちは窮地を逃れ,少女は自らの美しさを自覚し,美しいということが世間ではどのような力を発揮しうるのかを発見していく。その意味で,この本は物語の力,若いとはどういうことなのかを再認識させてくれます。