香月日輪をご存知?

香月日輪...という作家をご存知ですか?私は,恥ずかしながら知りませんでした。

地獄堂霊界通信(1) (アフタヌーンコミックス)

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妖怪アパートの幽雅な日常1 (講談社文庫)

妖怪アパートの幽雅な日常1 (講談社文庫)

しかし,勤務先の近くの短大から講演会の案内をもらったし,急に午後の予定があいたのでお邪魔してみる。
講演が始まる10分前には会場に着いたのだが,少なく見積もっても120〜30人は入る大教室はほぼ満員。学生さんらしき人も多いが,それにも増して若い人の姿が目立った,そして私と同世代の人の姿もちらほら(後で分かったことだが,女子高生たちの保護者+彼女たちの学校の司書だったらしい)。年代的にはかなり散らばっている。だが女性が圧倒的に多い。
講演では,自分が作家になったいきさつや,作品の作り方が主なテーマだった。
恐らく似たようなテーマで何度も話しをされているのだろう。話しがとてもうまい。これまで日本の作家の講演を何度か聞いたことがあるけれど,純文学系の作家,あるいはいわゆる<文壇>というところで暮らしている作家とは明らかに違う。ティーンエイジャーを相手にするエンターテイメントの作家に取っては,講演も創作と同じく重要な営業の場なのだろう。
とはいえ,話し振りだけが面白いのではない。内容もとても興味深かった,香月さんはいわゆる文学作品をほとんど読んだことがないらしい。ただしアニメ,漫画,怪談にどっぷり浸かって少女時代を過ごしたとのこと(やはり,人は物語に触れることによってしか物語を紡ぎだせないようだ,それが昔は文学作品だったのだが,文学以外の物語が溢れ出した70〜80年代以降は,参照体系が文学から例えばアニメ・マンガに変わっただけのことだろう)。
また,創作の最初の段階ではキャラクターの設定に非常にこだわるそうだ。その理由はキャラクターさえ決まれば,後はキャラクターが勝手に動いて物語を紡いでくれるから,とのこと。だから,決して作品には出てこないような詳細なことまであらかじめ来ておくのだそうだ。またそうしたことが,後に思わぬ所で,創作に役立つそうだ。講演では,キャラクター設定のための資料が多数OHCで映し出されていた(マンガ家志望だっただけに,絵がむちゃくちゃに上手い!)。その度にファンからの大きなため息とも歓声が上がっていた。
だが,もっともおもしろかったのは,時には自分が作ったはずのキャラクターが勝手に暴れだしたり,暴走(創作のレベルで)をはじめて,物語は破綻しそうになることもあるという話し。
やはり生まれつきの作家がどっぷりと創作活動に耽ると,その時には<何か>が降りてくるらしい。
また,フロアとの質疑応答もとても面白かった。沢山の質問,そしてその内容からして,聴衆の絶対的多数が香月ワールドのファンらしいことがわかった(若者が本を読まないなんて,インテリぶって嘆くマスコミのの言うことを素直に信じてはいけない,昔とは読むものが違うだけなのだ)。
また,それに対する香月の返事も面白かった。孤独の重要さを語り,人生好きなことがあれば友達なんていらないとい力説し,中高校の教師が説く薄っぺらなモラル(もっとも,1クラス40名の近くの生徒を相手にするサラリーマン教師に薄っぺらなモラル以上のものを求めてもらっても困るのだが...)を批判する彼女の姿を見ていると(そういう話しになると会場が一瞬シーンとしていた,よほど若い人に影響力のある作家なのだろう,香月は),
なんとなく人生の生き方に悩むティーンエイジャーを,ある意味で安心させるメッセージを含んだ作品を書いているのだろう。
私とまったくの同世代の彼女,今度の出張先に一冊もってみようかしら...
地獄堂霊界通信5 (講談社文庫)

地獄堂霊界通信5 (講談社文庫)