フランス大統領選挙雑感:メディアについて

2012年のフランス大統領選挙は不況下の選挙だった。
一方,前回の2007年選挙は,アメリカのサブ・プライム問題が顕在化する前。世界中が好景気の最後の瞬間に浸っていたころに行われた選挙だった。その結果,第1回投票では,いわゆる極端な主張をする政党には支持が集まらず,穏健な中道派の候補フランソワ・バイルーに票が集まった。「第三の男」というあだ名がついたほどだ。
一方,不況,雇用不安の真っただ中でおこなわれた今年の選挙では社会党よりよさらに明確な左派路線を打ち出した左派統一戦線のメランション氏と,移民排斥と金融業界批判を徹底して訴えた国民戦線のル・ペン女史が得票をのばした。興味深かったのは,両者に対するメディアの扱いが全く異なったことだ。
メランション氏は,左派政党ではもはやなくなった社会党を離党し,共産党の全面的な支持を取り付けた立候補した。言わば,現在のシステムからすれば完全なアウトサイダーだった。一方,ル・ペン女史は移民排斥を打ち出しはしているものの,すでにフランス社会は彼女が総裁を務める国民戦線の主張にかつての怒りを覚えることはなくなってしまった。マイナーな要素であるが,マイナーであるかぎりはフランス社会のシステムのなかに居場所をっみとめてもらった政党である。

当初2〜3%の得票率しか予想されていなかっ左派統一戦線が支持を拡大していたころ(3月中旬頃まで)は,多くのメディアは,この有様を面白がりながら報道していた。ところが,第一回投票の予想得票率が10%を越えてくると,メディアによるメランション叩きが起こる。もともとメランションはメディアの不勉強,メディアの権力との癒着を批判していた。そのメディアが一斉にメランションを叩いた。「メランションはスターリン主義者」,「メランションはカダフィと親交があった」,「メランションは極右支持のジャーナリストとも親交があった」等々。
結局メランション氏の得票は」11%に留まる,一方のル・ペン女史は19%近い得票を得た。第1回投票の夜,テレビはこの結果を胸をなで下ろすように伝えていた。ル・ペン女史の高い得票率を憂うよりも,メディアを政敵とみなしかねないメランション氏の得票がのびなかったことに,テレビ局は安堵したのだ。
この点において,国民戦線を「既成の権力の番犬」と非難し続けたメランション氏は正しかったことになる。
ただし,彼はメディアも国民戦線同様(あるいは以上に),「既成の権力の番犬」であることにもっと注意すべきだった。
そして,これはフランスに限った現象ではないだろう。