ロンドン女子団体準決勝の福原愛選手

遅ればせながら,ようやくロンドンオリンピック卓球女子団体の準決勝の第1試合を見ることができました。Youtubeで全競技全種目が閲覧できるサイトのおかげです。ありがとうオリンピック委員会です。
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さて,メダルの行方をにぎる準決勝ですが,団体戦ではトップを取れるかどうかですべてが決まるといえるほど,第1試合は重要です。
北京オリンピックで男子が善戦はしたものの,結局ドイツに負けたのは,若きエースの水谷君がボルに掴まったのもまずかったですが(オーダーの失敗),それ以上に第一試合で偉績選手がオフチャロフに負けてしまったのが大きな原因でした。また,今年のドルトムントで同じく男子が同じくドイツに惨敗を喫したのもエース水谷選手が,第一試合でまたまた同じくオフチャロフ選手ににこてんぱんにやっつけられたのが要因だったような気がします。
その点で,今回女子が銀メダルををとれたのは,第一戦で福原選手がシンガポールのフェン・ティアンウェイ選手に勝ったことが決定的であったように思われます。
さて... 福原選手の勝因ですが... これまでの対戦成績と試合内容が福原選手に有利に働いていた気がします。これまで福原選手はフェン選手にほとんど勝ったことがありませんでした。一方,石川選手は2010年のワールド・カップ団体戦でフェン選手にかなりの大差で勝っています。もっとも数日前の3位決定戦では,逆に石川選手が惨敗を喫していますが...
恐らく,シンガポールは,シングルスで大活躍した石川選手とフェン選手が対戦しない組み合わせになった時点で,半ば勝利を確信していたのではないでしょうか?(逆に言うと,これまでの対戦成績,シングルスでの石川選手の活躍にもかかわらず,メダル獲得に一番大事な試合で敢えて福原選手をエースとして起用し,初戦でフェン選手にぶつけた村上監督のオーダが的中したともいえるのでしょう)
フェン選手は福原選手と比較的似たプレイスタイルの選手です。しかし福原選手よりも若干パワーがあって,しかも若干フォアとバックのバランスがいい選手です。フォアハンドは安定感,パワーともに福原選手よりもかなり優っています。
だから,似た者同士が戦うので,いつもいい試合にはなるのだけれど,最後は若干自力に優るフェン選手が勝ってしまう... 私がこれまで観戦した試合の印象はこんな感じでした。しかし福原選手の目線から楽観的に考えると,大きく負け越しているにもかかかわらず,フェン選手は自分の卓球をさせてくれる相手,調子さえよければ十分に勝てる相手と見ることもできます。つまり,中国の選手や守備型の選手と相対するのとは違って,福原選手は変なコンプレックスや苦手意識を持たずに,思い切りぶつかれたのではないでしょうか。しかもフェン選手は対戦成績がいい分,福原選手に対して特別な対策を取らずに,いつものような作戦で闘ってくれました。この点が非常に大きかった感じがします。
福原選手といえばバックハンドがピッチが早く安定している反面フォアハンドが苦手と言われてきました。また,ここ1年はフォアハンドの強化に取り組み,目覚ましい進歩を遂げたと言われています。しかし,やはりフォアハンドがまだまだ弱いことに変わりはありません。
一方,フェン選手には福原選手に劣らない強力なバックハンドがあります。これまでも彼女はバックを打ち合う闘いに持ち込んで,いわば福原選手の土俵で闘って勝ってきましたた。だからこの準決勝でも,試合の前半はいつものようにバックの打ち合いに持ち込みます。ところが,この試合では福原選手のバックがいつも以上に冴えていました。特に,レシーブが見事でした。レシーブから積極的にバックハンドを振っていきました。特に良かったのが,フォア側にきたサーブに対しても積極的にバックで攻撃していたことです(フォアハンドでのレシーブエースもありましたが)。どんなコースでも相手のサービスをバックで自在に払っていたので,福原選手は相手を戸惑わせ,試合の主導権を握ることができました。
ところが... 2セットを連取され,後がなくなった時点で,フェン選手は戦術をがらっと変えました。見事な作戦変更です。意地になってバックで打ち合うのではなく,バックでの打ち合いの後で,フォアを突きはじめたのです。効果はてきめん。フェン選手は第3セットを5-11の大差で奪い返します。第4セットも序盤は福原選手が7-3でリードしていましたが,あっという間に8-7に追いつかれてしまう始末。今までの福原選手なら,このままずるずると逆転されていたかもしれません。
しかし!ここで福原選手自身がタイム・アウトをとって一息つけてのが大きかったと思います(タイムアウトを取るのが遅れる傾向にある男子選手+宮崎監督にはぜひ見習って頂きたい)。集中力を切らさずに,結局このセットを福原選手は11-9で取るのですが,もしもこのセットを落として,最終セットで再び執拗にフォアを攻められた場合,はたしてどこまで凌げたことか....
と考えると... 福原選手の勇気,集中力でつかんだ1勝であることはもちろんですが,フェン選手の戦術にも助けられた一戦でした。