泣ける社会学


教育学とか,社会学で泣けるのにお目にかかれることはめったにないと思うのだが...
このステファヌ・ボーの『80%が大学入学資格取得,その後は...?』は例外的な本だ。
フランスでは80年代半ばに,当時はバブルの真っ最中でとても景気の良かった「日本に学べ!」ということで,80%バカロレア(=高卒=大学入学資格)取得政策が実行された。
現場の意見,状況を半ば無視して,トップダウンで実施された政策は様々な所にひずみを産む。
この本はジュラ地方のモンベリアルという地方都市の郊外に住む移民二世たちが,90年代(この政策に合わせて高等教育への進学率が上昇した時期)にどのような,学歴+職歴+人生を送ったかを追跡調査している。
数人の若者たちを10年近くに渡って<調査>している本書の筆致は,社会学の研究書でありながら,決して冷たいものではない。若者たちの考え,状況を理解しようする結果だろう,抑制の利いた文体でありながら若者たちへの強い共感が感じられる。ここには<他者>を理解しようとする上で,研究者のみならず人がとるべき理想的な態度が読み取れる。他者とたっぷり時間を共有する,カフェでだべって,食事をともにし,困っている時には手助けをし,アドヴァイスをする。そういう長くて,濃密な付き合いの中からやっと理解できたことを言葉にしていく。
近年,ヨーロッパに行って不安になることが一つある。人種差別に対して,皆のガードが甘くなっている感じがするのだ(これは単に私の友人が年を取り,ブルジョワ化したしせいなのかもしれない)。
この本を読めば,フランス人の移民の生活(特にマグレブ系)に対する理解がぐっと深まると思うのだが...