駄作も名作

鈴木英夫の『不滅の熱球』(1955),『やぶにらみニッポン』(1963)を見る。
『不滅の熱球』は伝説の名投手沢村栄治の半生を,かなり大胆に脚色した作品。沢村を池辺良,沢村に憧れ,最後は妻となる女性役を司葉子が演じている。池辺のピッチングも見ていて楽しい(なかなかの好投手ぶりだった)が,司の大根役者振りは感動的はレベルだった。今は,アイドル,グラドル上がりの大根役者が歟に溢れている。だから大根であることにあまり商品価値はない。だが当時は事情がまったく異なる。名うての演技自慢の女優がひしめく中で,司の若さ,美しさ,そして大根ぶりはキラ星のような魅力があったのではないだろうか。いずれにせよ,この映画の司の顔立ちの瑞々しい美しさ,表情の愛らしさ,スタイルの良さは素晴らしい。また笠智衆の監督も面白い。また,1950年代の後楽園球場,甲子園球場の姿が見られるのも楽しい。
『やぶにらみニッポン』は東京オリンピックを1年後に控えた東京の姿を,日系アメリカ人の物理学者,日本人ガイド,記者,日本びいきのアメリカ人女性などの恋愛コメディを通じて描いた映画。映画の出来としては大したことないのだが,弥生・縄文の時代から続いている(当時はコンプレックスの対象は大陸人だったと思うが)ほぼ遺伝的とも言える日本人の外国人コンプレックスをこれでもかとおもうほど徹底的に描いているのが凄い。それと... 現代からこの映画を見ていると,やはりこの映画の明るさには驚かされる。今は外国(=アメリカ,西欧人)に負けているかもしれないが,いつかは追いつけるという革新のようなものが窺える。だからこそ,これほどあっけらかんと外国人コンプレックスが,国際的な祭典であるオリンピックの前年に製作,公開されたのだろう。そう思うと,なんともうらやましい話ではある。