日本におけるフランス文化の将来は暗そう...

石井洋二郎『フランス的思考』を読んでみた。
とてもコメントが難しい本だ。個々の記述はそれなりに有益だし,フランス文学や文化に興味がある人が読めばそれなりに貴重な情報・知見は得られるだろう。
しかし,1つの企画としてみた場合,この本は失敗なのではないのだろうか。取り上げられている作家の間に一本の筋のようなものがないので,フランス文学史にある程度の予備知識がない人が読むと「この本はなにが言いたいのか」「この本で著者は何がしたいのか」と大いに戸惑ってしまうのではないだろうか(杞憂であればいいけれど)?
著者は<野生の思考>という問題系で括ろうとはしているが,無理筋という感が否めない。<精度>をあえて捨てて,もっと大きな流れを読者に提供すべきだった。もっとも著者はこれ以上<精度>を捨てるなんて,学者としてのプライド+良心が許さないとおっしゃるかもしれないが...
日本ではフランス文学の関心が低下している。だからこそ,新書のような誰もが気軽に読める本にフランス文学の流れと面白さを紹介することは,業界としては喫緊の事業だとは思う。そしてあえてその困難さに挑もうとされた著者の挑戦には敬意を表したい。しかし,全体の企てとしては残念ながら,意図が実を結んだとは言いがたい。
音楽の分野で岡田暁生が見事に成功させたこと,つまり新書1冊の中に西洋音楽の流れを凝縮して,しかも読み物として抜群に読みやすくかつ,途中で読書を中断したくなくなるほど面白い本を作るという仕事を,西洋文学の分野でも行わないと早急に業界は今以上のじり貧に追い込まれるだろう。
その必要性にようやく人々が気がつきはじめているのかもしれない。その証としてなら,この本は存在価値があるのかも知れない。後続に期待しましょう!