いかに老人から小遣い銭を巻き上げるか

 もう2〜3週間も前のことだが『みんなで一緒に暮らしたら』という映画をみた。
 永年つきあってきた仲のよい5人の老人が一緒に暮らしはじめる様子をユーモラスに描いた映画だ。5人の老人は2組のカップルと独身の男性というとりあわせ。5人の老人はいずれも名優たちが演じている。それに,老人の性をテーマに博士論文を準備しているというドイツ人の若者が加わる。
 テーマ,キャスティングともに申し分ないのだが ,映画としてはとてもつまらないものだった。映画では美しいことも,醜いことも,楽しいことも,つらいことも,現実よりもほんのちょっと<濃厚>に表現されないと,観客の心をひきつけるのは難しい。楽しいことは思い切り楽しく,凄惨なことは思い切り凄惨に,平凡なことはとことん平凡にといったぐあいに。
 ところがこの映画はでは<老い>がそんな風には描かれていない。先進国,特に日本では<老い>をの脅威を感じながら誰もが生活している。老いることとはこの映画に描かれているほど甘いものではないないこと,そして,それからは誰も逃れられないこと。そんなことを誰もが生き,話として聞いている。日本では老いとは,この映画に描かれているほど<甘くない>ことを誰もが感じながら毎日を送っている。
 ところがこの映画は,老いと向き合わずに,老いについての物語を描こうとしてる。老人の性についても,映画ではジェーン・フォンダ演ずるジャンヌが,ドイツ人学生に「夫との性的な関係はほとんどないが,よく頻繁に自慰をする」という程度だ。
 かつての名優目当ての老人から小遣い銭を巻き上げるための興行としては成功なのかもしれないが,映画としてはまったく失敗だ。昔はティーン・エイジャーから小遣いをむしり取る映画や歌が多かったが,幸か不幸か映画や音楽にお金を使う若者は減るばかり。映画業界としては,年金暮らしの老人が新たなターゲットなのだろう。映画館はずっと前からシルバーを意識した料金体系に移行しているが,製作サイドもあからさまに老人を狙った企画が増えている気がする。しかし,『みんなで一緒に暮らしたら』にかつては映画館で名作を見てきた目の肥えた老年の客層が引っ掛かるとは思えない.... もっとも私はひっかかってしまったけれど。