2013年パリの福原愛選手と水谷隼選手

パリの世界選手権個人戦のシングルス一回戦で日本の男女トップランカー,水谷選手と福原選手が相ついで敗退した。世界卓球連盟のHPでも「苦しむ日本」と大きく取り上げられていた。
世界ランク上位の選手で1回戦負けしたのはこの二人だけといっても過言ではないようなので,こういう捉え方をされても仕方ないだろう。

パリのマルシェを歩く (FIGARO BOOKS)

パリのマルシェを歩く (FIGARO BOOKS)

ただ,二人を擁護するわけではないのだけれど,他の競技と違って卓球にはいわゆるシーズンオフというものがほとんどない。いつも世界ツアーや国際地域レベルの試合や国内大会(社会人,大学生,オープン大会などなど多種多様)が行われている。
しかもご存知のように二人は昨年のロンドン大会に「すべてを賭けて」,調整してきた。しばらくそっとしておいてあげてもいいのではないだろうか。

徹夜続きみたいな状態で,テレビ観戦をしたので,的外れなことを書くかもしれませんが...
福原愛選手,敗因は引き出しの少なさと,メンタルの弱さだろう。テレビではセットカウント1-2から観戦したのだが,まずテレビに映し出されたのがコーチと話し合う彼女の顔のアップだった。セットカウントを確認する前に,顔を見ただけで劣勢なのが判った。素人の私が判るくらいだから,彼女の動揺,恐れはコート越しに相手選手,相手選手のコーチに伝わっていただろう。劣勢になると,凡ミスを繰り返したり,コース取りが単調になるのもいつものパターンだった。
一番の問題は勝ちパターンの少なさだろう。ここ数年,フォアの強化に取り組んでいるとのことだが,彼女の卓球の生命線はバックハンドだ。だからバックの引き合いで主導権が取れないと,お手上げだ。残念ながら,彼女は自分のフォアハンドで局面が打開できると考えるほど,自分のフォアハンドに自信を持っていない。しかも彼女のフォアハンドは,例えば石川選手のような威力がないようだ。そのことは相手選手もよく把握していた。
だから,昨日も相手選手はレシーブに回ると,あえて自分から仕掛けたりしなかった。ストップ・レシーブさえ使っていなかった。長いツッツキで福原選手のフォアサイドにレシーブして,わざフォアサイドからドライブで攻撃させていた。相手は世界ランク160位程度の選手なのに!その選手がわざと世界ランク12位の福原選手が先に攻めるようにレシーブに細工をしていたのだ。
福原選手のフォアサイドからのドライブは威力不足なので,フォア側から攻められてもラリー戦に持ち込めると踏んでいたのだろう。嘗められたものである。だが,この執拗に繰り返されるパターンを彼女のフォアハンドは打開できなかった。バックハンドで主導権を握れない時,どう作戦を立てるか。これは,福原選手がもう一歩大きく前進するためにどうしても答えを見つけなければならない難問になりそうだ。

卓球戦術ノート (卓球王国BOOKS)

卓球戦術ノート (卓球王国BOOKS)

一方,水谷選手は特に不調という感じはしなかった。彼らしい中陣,後陣での打ち合いは見ていて楽しかった。敢えていつもと違うところといえば,サービスが単調・雑で,相手選手からしばしばレシーブからがつんと叩かれていたことくらいだろうか。
おそらく今の水谷選手の問題はメンタルな部分ではないだろうか。福原選手が抱えるメンタルな問題はまったく性質が違う。福原選手の場合,「勝ちたい」「負けるのが怖い」という意識が強すぎるのに対して,水谷選手は「勝たねば」という意識が弱すぎたのではないだろうか。
思うに,ロンドンでメイス選手に敗れたことがよほどショックだったのだろう(しかも,恐らく向うは違法なやり方でラバーを貼っていた)。リードされていても,勝負所でドンドン攻撃したり,絶体絶命のピンチを前陣のブロックで打開する独特のアグレッシブさが最近影を潜めている気がしてならない。今年の日本選手権の決勝でも,アグレッシブさが足りない印象を持ったが,昨日の戦いでも水谷選手らしいガッツ,爆発力を発揮することなく,ズルズルと負けてしまった。燃えるものがなかった。そしてそのことは,恐らく本人が一番よく分かっている筈だ。長い競技生活,色んなことがあるとは思う。この<空白の時期>を彼が上手くやり過ごして,太々しく,攻撃的な水谷卓球が復活することを,待つことにしよう。

衛星でパリの世界選手権を放送しているJスポーツに二言。
1)アナウンサーのレベルが低すぎる!特に,坂信一郎は酷い。仕事で取材をするから日本の卓球選手のことは少しは知っているようだ。そもそもこの人は卓球という競技への理解が致命的に不足している。だから,選手への,また卓球への敬意も抱くことができきない。今の日本選手にとって一番の不幸は彼が放送する試合で競技することだ。日本卓球協会が卓球を本当にメジャーなスポーツにしたければ,まずこんな輩が中継することに抗議すべきだろう。
2)15日の放送について,J スポーツは確かに実況とかLIVEという表現は使っていない。しかし,「試合開始までお待ち下さい」といったテロップを出して,あたかも実況放送のような誤解を視聴者に与えようとしていた。世界卓球連盟のホームページを見れば,分単位で全試合のスコアが更新されている。つまり,ネットがあれば,Jスポーツが試合開始を待てとアナウンスしている件の試合はとっくの昔に終了していることが判るのに。これでは,テレビが速報性においても,倫理においてもネットよりも遥かに劣ったメディアであることを自らの手で露にしているようなものだ!Jスポーツの放送倫理を疑わざるを得ない。
日本でどうしても卓球がメジャーなスポーツになれないのは,メディアの力不足,見識の低さ,無理解が大きいのかもしれない。

続 卓球戦術ノート (卓球王国ブックス)

続 卓球戦術ノート (卓球王国ブックス)