ウェルベックの『服従』

ミシェル・ウェルベックの『服従』を再読した。
1度目は単なるフランス社会の風刺,として楽しく読んだ。まさかこれほど話題になるとは思わずに。ただ,ウェルベックの小説の中では1番できが悪い作品だと思っていた。なんとなく他の作品に比べると作者が手を抜いた,軽い作品に思えたからだ。
2度目の印象は... 小説としてもだが,風刺としてもつくづくよくできた本だと思った。おそらく,軽い作品ではあるのだが,手抜きとはかけ離れた,とても完成度の高い作品であることがわかった。
細かいディテールの関連性をうまくつなげて,主人公フランソワの改宗を大変説得力のあるものとして描いている。
確かに,2022年に大統領に就任するベン・アベスの政策は,多くの近代社会に暮らす人から(特に女性)からは受け入れがたいだろう。そして,この本で描かれている政策をイスラムの非近代性をいたずらに強調し,イラスムへの不安を煽る,ウェルベックイスラム嫌いのさらなる証と取ることもできるだろう。そして,このような解釈がマジョリティーを占めているだろう。
だが,忘れてならないのは,『服従』では多くのフランス人がベン・アベスの政策を支持していることである。事実,これはフランス社会では革命以後も,伝統的に存在する非民主/反民主勢力が一定の支持を得たきたし,国を支配してきたこともある。また,多くのエリートが,先の大戦では保身に走った(まあ,この点では日本のエリートの方が断然酷かったけれど)ことも忘れてはならないだろう。
服従』とは,失業率が10%を超えても,すなわち社会党という看板を掲げながら,10%以上の人々を社会から排除した(もちろん失業者の家族を含めれば,失業に苦しむ人々は膨大な数になる)まま,指をくわえたままの現政権,それにを黙認する社会への痛烈な風刺・皮肉の書なのだ。