リオまでの日本の卓球

東洋経済ONLINEに「卓球男子が超速で「世界最強」に近づいた理由」という記事が掲載されていた。記事にはこうある。

つまり、わずか4年間で日本選手たちは驚くべき成長を遂げたと言っていい。以下、考えられる理由を3つ挙げてみた。

その3つとは,
1)若手の育成が急速に進んでいる
2)海外で「武者修行」を積む若手選手が増えている
3)3つ目の理由として、卓球界における圧倒的な王者、中国対策が着実に実を結んでいる
この3つだそうだ。
1)ロンドンからリオという視点から言えば,日本の男子は若手の育成に失敗したと言えるだろう。ここに引用した記事がいい例だが(!),日本のメディアの健忘症は芸術的なので2〜3年前の世界における日本卓球界の状況を確認しておこう。2013年のパリでは丹羽選手,松平選手という当時の日本のホープが中国選手に肉薄していた。松平は中国選手馬琳は世界ランキング8位の馬淋選手と,リオで水谷選手と銅メダルを争ったサムソノフ選手を破り,当時世界ランキング1位だった許繒選手にあと一歩のところまで迫った。丹羽選手はリオで皇帝のような強さを見せつけた馬龍選手に善戦した。ちなみに2012年のロンドン・オリンピックのアジア予選では馬龍選手を破っている。
現在中国のトップ選手に勝てる可能性のある日本選手は水谷選手だけだが,数年前の日本には中国の覇権を脅かせる可能性のある選手が複数いたのだ。ロンドン以降の男子に関しては,日本卓球協会(以下「協会」)は若手の育成に見事に失敗したことは素直に認めるべきだろう。
もちろん女子の伊藤選手,平野選手,早田選手,佐藤選手や男子の張本選手のように,今のティーンエイジャーはダイヤの原石がごろごろしているようだ。だがダイヤの原石をダイヤにする力,彼らに才能に見合ったキャリアを積ませるノウハウが,協会にあるかどうかと問われると... どうだろう... 少なくとも,ロンドンからリオの経験だけから判断すると,悲観的にならざるをえない。
2)海外での試合の経験を多く積ませる協会の方針は成功を収めている。だが,オリンピックに関してはどうだろうか?先般も書いたので,繰り返したくはないけれど,協会はリオ・オリンピックの1年も前に代表選手を決めてしまった。しかし,協会に本気で中国に勝つ気があったなら,東京で金メダルを目指すのなら,特に有望な若手がひしめき合っている女子では,このような乱暴な決め方はすべきではなかった。もう少し選考の時期を遅らせるとか,過去1年間の成績を重視するなどの方法を考えるべきだった。オリンピックの人選は難しい。中国も人選ではもめにもめた。関係者全員が納得するものではなかった。しかし結果は出した。日本はロンドンよりも成績は悪かった。協会はきちんと総括するべきだろう。女子については,スポンサー,人気という点からは大成功だったかもしれないが,育成という点からも,勝負重視という点からも大変問題のあるチーム編成であったことはもう一度繰り返しておく。
3)記事によれば,「3つ目の理由として、卓球界における圧倒的な王者、中国対策が着実に実を結んでいる」とのことだが,冗談ならユーモアのセンスがないし,もしも事実を伝えているつもりなら,その根拠を教えてもらいたい。
日本の卓球は中国対策に真剣に取り組めるだけのレベルに達していない。そもそも中国以外の国に勝つことが,男女を問わず今の日本にとってどれだけ大変であるか,オリンピックを見れば一目瞭然だろう。おそらくこれまでの日本は,中国と戦う権利を得るのに汲々としてきた。つまり,アジアやヨーロッパのライバル国とどう戦うを考え,実行するだけで精一杯だった。
そもそも,日本の卓球界が本当に中国に勝つ気で取り組んでいないことは,クアラルンプールの世界選手権女子団体決勝直前にフェイスブックで配信されていた,日本と中国両国の練習風景からして明らかだ。試合の直前,王者の中国の方がずっと真剣に日本選手との対戦を意識した練習をしていた。
今の日本のファンができることは,より謙虚に世界の卓球界の動向を見渡すことだろう。
このような根拠薄弱な,いわばリオの日本卓球選手の頑張りのおこぼれを狙うような品格のない記事は,日本の卓球界にとって害毒にしかならない。記事の著者にも,掲載媒体にも反省をお願いしないではいられない。

勝利はすべて、ミッションから始まる。

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卓球王国 2016年 10 月号 [雑誌]

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