ブラジルのステファン・ツヴァイク:『ステファン・ツバイク,さらば
フランスに出張しているはずなのだが,ドイツ語やドイツの俳優が出てくる作品ばかりに出会っている。ずっと当たりだったのだが,ついにハズレ作品に出会ってしまった。マリア・シュレーダー監督の『ステファン・ツヴァイク,さらばヨーロッパ』(2016)だ。
何が不満かというと,5ヶ国語(フランス語,スペイン語,ドイツ語,英語,ポルトガル語)が飛び交う中,(できる範囲でだけれど)必死に台詞を聞きったり,字幕を読んだ挙句,結局ツヴァイクが何故自殺したのかがよく分からなかった。この不可解さは,見る方の知識や語学力が不足に起因しているのでもなければ,監督が観客に意図的に投げかける構造的な謎でもなく,シナリオの弱さに起因しているとしか思えない。まあ,仕事に集中できない,金がないと嘆く場面はあるのだけれど,そう言いながら新作は出版しているし,金がないとはいえ,文字通り着の身着のままヨーロッパから逃げ出していたユダヤ人と違って,ツヴァイクはどこに行っても歓待されている。万が一ツヴァイクの嘆きが自殺の原因だととしても,彼が漏らす嘆きは彼の危機的な状況ではなく,彼の現実感覚の無さばかりを浮き上がらせてしまうのだ。また自分が置かれて状況(例えば戦局)に絶望しているとしても,そう考えるにはあまりに彼は,よく言えば感覚的,悪く言えば即物的な人間に見える。映画からは,どう見てもツヴァイクはブラジルの亡命生活を楽しんでいるとしか見えないのだ。
事実,映画の中では,あらゆる人種が調和の中で暮らしていると,ツヴァイクはブラジルを褒めちぎるのだが,映画の中では南米を牛耳る白人と額に汗して働く黒人というふうに人種の違いが階級の違いと見事に合致している。もしも,これが当時のヨーロッパを代表する大作家ツヴァイクが考える調和なら,申し訳ないがそんな調和などいくらヨーロッパ人が世界中に押し付けようとしたても,こちらこそ願い下げだ!
というわけで,この映画は,リオのオリンピック+パラリンピックに便乗した企画にしか思えなかった。日本では公開されることはないと思うが,公開されてもくれぐれも見に行かないように。本当にお金と時間の無駄です。
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