『肉体の悪魔』に納得する女たち

先日,とあるNPO法人にお邪魔してレーモン・ラディゲの『肉体の悪魔』についてお話しさせていただいた。

肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)

肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)

簡単にあらすじを紹介すると...
第1次世界大戦の最中,父の知り合いの家の年上の娘に恋する高校生が主人公の物語。ところが娘はすでに婚約している。しかも,婚約相手は軍人でドイツ軍と前線で闘っている(らしい)。
結婚後,高校生の自宅からそう遠くないところに居を構えた娘は,夫のいない間に,高校生を誘惑してしまう(最も,口は達者でも経験のない高校生は娘が誘惑してきたことにはあまり意識がいかない)。性愛の悦びを知った二人は,周りの目を気にせず情事に耽る。そしていつの間にか誘惑した娘の方が,高校生に奴隷のように服従する。そして妊娠してしまう。
肉体の悪魔 (新潮文庫)

肉体の悪魔 (新潮文庫)

ドルジェル伯の舞踏会 (新潮文庫)

ドルジェル伯の舞踏会 (新潮文庫)

子供の父親が誰かばれるのを恐れた高校生は,自分が父親であることがばれないように,夫が休暇で帰還してきたら,性的関係を持つように頼み込む。結局,誰が父親かばれることなく,娘は出産するのだが,産後の経過が良くなくて死んでしまう。小説は,最後,夫が主人公に残された子供だけが自分の生きる理由だと告げる場面で終わる。
ドルジェル伯の舞踏会―現代日本の翻訳 (講談社文芸文庫)

ドルジェル伯の舞踏会―現代日本の翻訳 (講談社文芸文庫)

同性の立場から見ると,この20歳代前半の人妻に性の手ほどきをしてもらう高校生のが羨ましくもあり,また娘への態度の卑劣さに怒り,ご都合主義の小説の終わり方にまた腹が立つ。
随所に恋愛,若さに対する達観した警句を盛り込む作者ラディゲの早熟さはよくわかる。とはいえ,読後感は爽快とは程遠い。主人公と同性の私が読んでも,腹立たしいのだから,亡くなった娘と同性の女性読者が読めばさぞや主人公に対する怒り爆発と思いきや...
女性の反応がびっくりするほど寛大なのにはびっくりした!
曰く,「これは男の子の成長過程の1段階」,あるいは「娘の方も楽しめて,いい思いをしたのでは」とのこと!これが男の子を子供にもつ親バカ母さん,孫バカ婆さんの話なら,まだ分かるのだが,結婚前の妙齢の女性もほぼ同意見なのには参った!!
私としては,主人公への非難が爆発すると思っていたのだが... これでますます女がわからなくなった。
ラディゲの死 (新潮文庫)

ラディゲの死 (新潮文庫)