植民地で暮らす

マルグリット・デュラスの『インディア・ソング』を見た。

インディア・ソング [DVD]

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当時はイギリスの植民地であったカルカッタのフランス大使館を中心に物語は展開する。なので植民地における支配,搾取,人種差別の現実に映画が触れることはない。とても変わった映画で,登場人物は決して唇を動かして話すことがない。物語は全てヴォイス・オヴァーの声によって進行する。そのためにとても詩的な作品に仕上がっている。実際,歴史的な目配せは映画の最後にあるだけで,それで物語が1937年頃のことであることがわかる。
インディア・ソング/女の館

インディア・ソング/女の館

詩的な作品だからといって,そのせいで逆に植民地の現実が完全に隠されているわけではない。それが支配者である白人の男女関係である。女性主人公アンヌ・マリー・ストレッターは大使の妻なのだが,彼女の周りにはいつも他の男性がつきまとう。映画ではストレッターは気に入った男性とは随意に関係を結ぶということになっている。
おそらくこれは,植民地では植民者の多くが男で,女性は圧倒的に少なかったという事実を反映しているのだろう。しかも,植民地の行政を司どる官僚たちは,ひたすら本国や,ヨーロッパや北アメリカなどのもっといい任地へ任命されるのをひたすら待って半ば時間をつぶすしかすることがない。
インディア・ソング (河出文庫)

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ストレッターのような魅力的で男好きの,女性が暇を持て余している男たちで構成されるきわめて閉鎖的な社会のど真ん中に投入されるわけだから,結果は自ずと見えている。この恋愛が生まれる社会の絶望的なまでの閉鎖性は大使館のサロンの鏡が見事に象徴している。興味深いのは,ハリウッドなら上質のラヴ・コメディーができそうな状況を,デュラスは全く違う手法で,全く違う悲劇的な色調の濃い映画に仕立て上げている点だ。
愛人 ラマン (河出文庫)

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