エマニュエル・リヴァと『二十四時間の情事』

 最近デュラスの『愛人』を読み直した。最初に読んだ時は本当にピンとこなかったのが,深く感動した。

愛人 ラマン (河出文庫)

愛人 ラマン (河出文庫)

その直後に飛び込んだニュースがエマニュエル・リヴァの死だった。デュラスのシナリオをもとに,アラン・レネが1959年に撮った『二十四時間の情事』でヒロインを演じた女優だ。
二十四時間の情事 [DVD]

二十四時間の情事 [DVD]

この映画も20歳に初めて見た時はかなり退屈に思えた。ところが,数年前に見直してみると,強く深く心を動かされた。その後何度か見直したが,見るたびにトラベリングで撮られた昼夜の広島市街の美しさにはうっとりする。そして,広島駅の構内放送が流れる中でヌヴェールの市街が映し出された瞬間には度肝を抜かれてしまう。
 また,歳をとったせいか,映画の中でリヴァが演じているフランス人女優(シナリオでは「彼女」だったと思う)の心の動きも,昔よりは良くわかる気がする。何よりもリヴァはデュラスのシナリオにぴったりの女優だ。『二十四時間の情事』の彼女は知的な美しさで輝いている。そして,過去の思い出に取り憑かれ,日本人建築家との出会いで生じる葛藤や,情事を通じてよみがえる過去の思い出が生み出す混乱を見事に演じ,語っていると思う。なぜ「語り」かというと,デュラスが監督したり,シナリオを描いた映画ではいつも見られるように,『二十四時間の情事』でもヴォイスーオーバーで映像に重なる,<声>がとても重要な役割を果たしているからだ。
愛、アムール [DVD]

愛、アムール [DVD]

 私が読んだリヴァ逝去のニュースには,年老いた時リヴァの写真が添えられていた。その写真は『二十四時間の情事』を通じてしか若いリヴァの姿しか知らない人間からすると,衝撃的だ。レネの名作からもう60年近く経っているのだから当たり前なのだけれど。とはいえ,この世において,当たり前のことほど悲しいことはない!『愛人』を真に受けて,愛は死に打ち克つなどと軽々に考えてはいけないのかもしれない。