香具師:太宰治

太宰治の短編をいくつか読んだ。「姥捨」,「ヴィヨンの妻」,「おさん」そして未完の「火の鳥」だ。どれも大変面白い。面白いというのは,傑作という意味だけではなく,笑えるということだ。昔,『斜陽』を読んだ時もゲラゲラ笑える話で大いに楽しんだことがある。

津軽 (新潮文庫)

津軽 (新潮文庫)

太宰は何度か心中未遂をした挙句,結局玉川上水で心中をしてしまったらしい。一度は鎌倉で心中を図り相手の女性だけが亡くなったそうだ。
上記の作品で語られている題材はいずれも,経済的に二進も三進もいかなくなり,心中や盗みや夜逃げを強いられる作家とそれに巻き込まれる連れ合いとう,いわばカップルの社会的断末魔である。だから早々に笑いを得られるような代物ではない。しかも,これらの笑いの背景には,自身の心中未遂,道連れになった女性の死がある。自らが原因で引き起こした悲劇,心中や心中未遂を種子にこれほど笑いに溢れたお話を語れてしまうこととは!
ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

私小説作家の業と言ってしまえば,それまでなのだろうが,そこにやはり作家としての力量を認めないわけにはいかないだろう。そんな太宰の才能を錬金術士にまで持ち上げるつもりはないが,一流の香具師であることは間違いない。
太宰治全集〈2〉 (ちくま文庫)

太宰治全集〈2〉 (ちくま文庫)