フォルカー・シューレンドルフのインタビュー

フランス文化放送(France Culture)のインタビュー番組「裸の声で」でフォルカー・シューレンドルフの連続インタビューを聞いた。フランス語で堪能なのにびっくりした。ウンベルト・エーコの比ではない!ほぼ完全なバイリンガルだ。中学からフランスで過ごし,高校はパンテオンの裏手.というか私立プールの横にある名門のアンリ4世高校らしい。しかも,高校時代には全国の有名高校の優等生が参加する全国試験(Concours général)の哲学で入賞していたらしい!

恥ずかしながら,フォルカー・シューレンドルフの映画は『ブリキの太鼓』しか見たことがない。30年前以上に1度見ただけで,記憶も定かでない。ただ,グロテスクなイメージが多かったことだけを覚えている。シューレンドルフ自身も『ブリキの太鼓』小説家の企画が彼のところに持ち込まれた時には,小説の中にグロテスクなイメージが多すぎるという理由で,一度は断ったそうだ。しかし,結局はこれがカンヌで大賞を取り,彼の代表作になる。『スワンの恋』も見損なった。だが,このインタビューを聞いて,彼へのイメージが大きく変わった。私が思っていたよりもずっと繊細で,社会的意識が強い監督のようだ。ニュー・ジャーマン・シネマの一人と言われているが,いわゆるヌーヴェル・ヴァーグとは映画との関わり方が大きく違うことも知った。批評家から映画監督,つまり映画監督してきちんとして教育,職業人教育を受けていないトリュフォーゴダールは違い,フォルカー・シューレンドルフはルイ・マルアラン・レネの仕事を振りを見学したり,助監督として働いた経験がある。また自身の仕事を,ヌーヴェルヴァーグの監督たちよりも,50年代のハリウッドの監督の仕事ぶり,つまり職人芸に近いと考えているようだ。また,インタビューではアメリカでの経験や,アメリカの役者の仕事ぶりについて語っていてその点も興味深かった。「アメリカには確かに人種差別がある。しかし,アメリカでは黒人がアメリカ人であることは誰も疑わない。それがヨーロッパとは大きく違うところだ。ヨーロッパでは黒人の存在は許容するが,誰も彼らを本当のヨーロッパ人としては受け入れない。アメリカは開かれた
偉大な民主主義の国だ。」
シューレンドルフのこの証言はトランプ政権誕生前のものだが,アメリカとヨーロッパの違いを考える上で興味深い証言だと思われる。