マリンヌ・ルペンにすり寄るおフランスのメディア

アスリートの魂』が平野美宇選手を特集した。
この番組を待ちながら,ザッピングをしていると,フランス第2チャンネルの『政治番組』で国民戦線のマリンヌ・ルペン女史を見かけた。

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軽い目眩を覚えた。彼女の物腰が以前と比べると大変柔らかい。父親ジャン=マリはの演説は,一つの芸と思って聴くと吉本を思わせる面白さがあった。ところが娘のマリンヌの方は大変真面目で,どちらかというと70年代のフランス共産党のような話をする。外国人排斥よりも,こうした点が人気のもとだろう。少なくとも元来フランスでは共産主義愛国主義は相性が良かった。
しかもテレビで見るルペン女史は結構美しいのだ。これは彼女の容姿よりも,メイクや撮り方によるところが大きい気がする。テレビ局と国民戦線担当者との間で,事前に入念な打ち合わせ,準備,そしてル・ペン女史を交えてのカメラテストが行われたのだろう。
記者の態度も大物政治家に相応しい態度だった。フランスのメディアの人間は,要領がいい。小賢しいというか,見極めがうまい。人気がなかったり,小物の政治家は小馬鹿にしたところがある。ところが人気のある政治家には,手のひらを返したようにすり寄る傾向がある。この番組の男性記者,ダヴィッド・プジャダスは後者の例だった。ただ,彼の名誉のために強調しておきたいのだが,どこかの国のように総理大臣+世間与党とテレビ局+新聞社のズッポリ,べったりの関係に比べれば,まだまだ健全だ。フランスのメディアは,世界中が非難している大統領に,尻尾を振りに行く首相を,恥ずかしいとか,国辱的だと嘆く記者が一人もいないほど腐ってはいない。数年前までは国民戦線の政治家と接する記者には,ためらいが見えた。記者の方から政治家に微笑みかけたり,カメラの前で握手をすることは大変稀だった。ところがこの番組での記者はまるで,大統領や首相を相手にしているような態度だった。
毎日のように発表されるアンケートによると,今大統領選挙の第1回投票が行われれば,マリンヌ・ルペンが投票の25%程度を集めて1位で決選投票に進むことになっている。マリンヌ・ルペンと決選投票で相対する候補が誰になるのかは,不透明なのだが,彼女が決選投票に進むことだけは確実と目されている。
大統領選挙が近づくにつれ,これから他のメディアが国民戦線党と党首にして大統領候補のマリンヌ・ルペン女史をどう扱うのかが,興味深い。
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