現代版カノッサの屈辱:サルコジに救いを求めるフィヨン

マレーシアやアメリカ,日本でもいろいろなことが起こっているようだが,フランス大統領選挙の動きも大変慌ただしい。

フランスの肖像――歴史・政治・思想

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「クリーンで誠実な私だからこそ国民の皆さん厳しい政策協力を訴えられるのです!」,というフランソワ・フィヨン氏のメッセージは,『カナール・アンシェネ』の一連の報道により全く意味をなさなくなってしまった。逆に,〈嘘つき〉,〈他人には厳しいが自分の家族には優しい〉,〈市民感覚が致命的に欠如している〉と言うネガティブなイメージが張り付いてしまった。ここ3週間,公共の場に現れる度に待ち受けた市民からたっぷりとヤジを浴びせられる始末。普通の選挙キャンペーンができない状態にまで追い込まれてしまった。
ヴァレンタインの翌日,フィヨン氏はサルコジ氏の元を訪れて昼食を共にした。相次ぐスキャンダルで八方ふさがりのフィヨン氏は,窮余の策としてスキャンダル慣れしている(!?)ニコラ・サルコジ元大統領に選挙キャンペーンの立て直しへの助言と協力を仰いだ,というのが大方の見方のようだ。
「起訴されたドゴール大統領を一瞬たりとも想像できますか?」と,金銭スキャンダルにまみれたサルコジを明らさまに狙った問いかけをキャッチフレーズに中道・右派の大統領候補選出予備選挙で大勝したフィヨン氏からすると,これほど屈辱的なことはないであろう。
フランスはどう少子化を克服したか (新潮新書)

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しかも,フィヨン氏がサルコジ氏の元を辞した後には,サルコジ派の若手議員の中でも一番の有望株で,サルコジ氏が大統領になれば首相に指名されるものと目されていた(因みに,フィヨン氏はサルコジ氏が大統領の5年間,たった一人で首相を務めた),いわば懐刀のフランソワ・バロワン氏がサルコジ氏を堂々と訪問している。これもプライドのフィヨン氏にとっては面白くないことだろう。
不思議フランス 魅惑の謎

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だが背に腹は変えられない。フィヨン氏は世論調査でもどんどんと人気を落としている。このままいけば,決選投票に進むことさえ困難な状況にある。ここまで追い詰められた彼がなぜ諦めようとしないのか。それはフランスの大統領選挙の選挙方法と,従来にはなかった2017年ならでは特殊な状況が複雑に絡んでいるようだ。この件についてはまた触ることにしたい。