奇妙な大統領選挙

フランスの大統領は有効投票数の半数以上を獲らなければ当選とならない。そこで,4月の下旬に第1回投票で候補者を二人に絞り,2週間後の5月の上旬に最終候補者二人の間で決選投票が行われる。投票行動でよく見られるのが,第1回投票ではお気に入りの候補に投票し,第2回投票では嫌いな候補に投票しないというパターンだ。これをフランスのメディアは「第1回投票では選び,第2回投票では排除する」と要約している。

すごいお母さん、EUの大統領に会う

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もっとも最近は,第1回投票で「役に立つ投票」をする候補者も増えている。左派の候補が票を奪い合い大本命の社会党候補ジョスパン候補が第2回投票に進めなかった2002年の大統領選挙第1回投票を教訓としているらしい。事実,2012年の大統領選挙第1回投票でも,社会党の候補だったオランド現大統領に票を投じた3割以上の人が,オランド現大統領よりも政治的にはさらに左に位置するメランション候補への投票を考えたらしい。それでも第1回投票でオランダ氏が1位に慣れたのは,多くの有権者が「役立つ投票」という選択をしたからだろう。
さて,ここから本題だが,2017年の大統領選挙が従来の選挙と根本的に異なるのは,今回の選挙は形式的には2回投票だが,実質的には1回投票と変わりない可能性が高い点だ。第1回投票では極右政党の国民戦線党首のマリーヌ・ルペン女史が決選投票に進むことはほぼ確実視されているからだ。しかも現段階では,彼女が他候補を抑えて第1回投票では1位になることが予想されている。同時に,世論調査は第2回投票では,得票率が45%を超えることはないと予想している。つまり,第1回投票で2位にさえなれば,ほぼ自動的に次期大統領になれる可能性が極めて高いのである。しかも第2位に滑り込むために必要な得票率が読めない状況にある。20%前後あれば十分と考える論者も少なくない。これでいくと今,第2回投票進出圏内にいる候補は,前回のブログでも取り上げたフィヨン候補,財務大臣を務めていたマクロン候補,文部大臣を務めていた社会党選出のアモン候補,左派のメランション候補ということになる。
なので,家族を法外な給与で政策秘書に雇い,しかもそれが偽装雇用の疑いがあるせいで大きく人気を落としている右派のフィヨン候補からすると,仮に人気が回復しないままでも,まだ十分に第2回決選投票に進み,大統領になる可能性が十分に残されているのだ。しかも,投票する方に第1回投票の決定的な重要性がどれだけ浸透しているのは定かではない。今年の大統領選挙から目が離せないわけだ。
A06 地球の歩き方 フランス 2017~2018

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