フランスの政局を分析するアラン・トゥーレーヌ先生

大統領選挙決選投票を1週間後に控えた4月30日の夕方,『C politique』(毎週日曜日夕方に第5チャンネルで放送)にゲストとして招かれた社会学者のアラン・トゥーレーヌが70年代後半からのフランスの経済政策について面白い発言をしていた。
まず,今回の選挙をトゥーレーヌは歴史的と位置付ける。すなわち,フランスの国外で起こっていることが投票に際し決定的な要因となることは,フランスの民主主義の歴史において初めての事態であると。これはもちろん,グローバル化,ヨーロッパ統合を意識しての発言である。今回の大統領選挙の真の争点は,大方の予想を裏切って,移民問題でも,イスラムでも,汚職でもない。あえて言えば,目の前の失業問題でさえない。グローバル化する世界,ボーダレス化するヨーロッパとフランスがどう向き合うかが,真の選挙の争点だ。ここまで外圧がフランスの政局に大きな影を落としたことは,少なくとも第二次大戦後はなかった。

フランスの経済政策に対するトゥーレーヌ先生の論評も面白かった。曰く,ここ30〜40年の間フランスが,アメリカやイギリスの背中を必死追いかけながら続けてきた脱工業化政策は根本的に間違っていたと。右派政権も,そしてとりわけ左派政権は,公務員を意識した政策に終始してきた。また,右派も左派も,組合や共産党の力を弱めるために,フランス経済の脱工業化を食い止めようとしなかった。それが結局,多くの失業者を生み出し,多くの人びとがフランス社会から忘れ去られ,除外される事態が生じてしまったと。来週の投票では,極右政党を政権につかせないため,マクロンに投票する以外に選択の余地はない(つまり,白票を投じたり棄権をすべきではないということ)。
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マクロンが大統領になった場合,たとえ銀行出身の彼が工業や産業の振興に興味がないにせよ,フランス社会の周縁部に追いやられた多くの労働者を,フランスの再工業化を通じて社会に再統合する政策を菅が実行すべきであるう。さもないと,マクロンは,5年後には極右政党が政権に就くための大通りを準備することになるだろうと。
トゥーレーヌ先生の分析は,これから2〜30年の日本の行方を考える上で,面白い視点を提供してくれているように聞こえた。この点についてはまた次回。
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