フランス大統領選挙:ル・ペン/マクロンのテレビ討論

現地時間で5月3日の夜に行われた,大統領選挙最終候補二人によるテレビ討論を見ようと試みてはみた。
しかし,最後まで見る我慢ができなかった。言い訳になるが理由は2つある。一つは討論を見なくても,二人の主張ははっきりしているので,最後まで必要性を感じなかったためだ。1月末に発覚したペネローペ・ゲイト,すなわち最有力候補とみなされていたフィヨン候補夫人の架空雇用疑惑のせいで,今回の大統領選挙は例年より早めに関心を抱いたために,私自身二人の主張を聞いたり,それに対するコメントにたくさん触れていた。同時に,つい数日前までは極右政党である国民戦線の党首だったル・ペン女史と銀行で大儲けをしたのちに経財相を務めたマクロン氏では,そもそも世界観も,支持層も全く異なっている。わざわざ2時間以上の討論を見てその二人の意見・主張・提案の違いを確認する必要を感じなかった。とはいえ,ル・ペン女史は数日前に右派「立ち上がれフランス」党党首のポンデニャン氏と選挙協力を結んだせいで,経済政策,特に通貨問題には大きな政策の変更が見られたのだけれど...

さて,最後まで見ることができなかったもう一つの,そして最大の理由は,今回の討論の調子というか,雰囲気が,従来行われてきた最終候補二人による討論とは全く違っていたからだ。ここまで相手への敬意を欠いた討論は,第2回投票直前の討論では見たことがない。礼節の欠如という点では,昨年のアメリカ大統領選挙におけるトランプ/ヒラリーの討論も相当だったらしいが,おそらく攻撃性,敬意の欠如(これはすなわちテレビを見ている有権者に対する敬意の欠如でもある)では,フランスにおける両候補のテレビ討論もまったく負けていないだろう。
フランス極右の新展開―ナショナル・ポピュリズムと新右翼 (国際社会学叢書 ヨーロッパ編)

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アンケートではマクロン氏が圧倒的に優位なので,ル・ペン女史は討論でいわば捨て身のタックルを試みたのだろう。同時に,現状に対する「怒り」がル・ペン女史への投票の大きな原動力になっている以上,彼女はその怒りを,グローバル化で徳をした階層,職種のシンボルであるマクロン氏その人に直接ぶつける必要を感じだのであろう。一方,マクロン氏は流・ペン女史の捨て身の攻撃をいなすとか,一段高い所から諌めるということを全くしなかった。ル・ペン女史と同じレベルの土俵まで降りてしまった。そして殴り合いの喧嘩をしてしまったという感じだ。
マクロン氏の言動が単に政敵から受けた攻撃への反撃なのか,ル・ペン女史を圧倒的に支持する民衆層への軽視の表れなのか意見のわかるところだろう。だが,あそこまでの攻撃性は,ル・ペン女史支持層への根源的な無理解がなければできないのではなかろうか。
1995年にシラクは社会的分断をテーマに選挙キャンペーンを展開した。20年経った今,グローバル化,ヨーロッパ統合がその分断をさらに押ししすめ,対話不可能なまでにその分断を深刻にし,対話不可能にしてしまったと言えるかもしれない。その点において,選挙結果の如何にかかわらず,二人の無責任さは重大である。