ゴンブロヴィッチと過ごす元旦
元旦,刺身やおせちをつまみながら,iPadに収めた資料を読んだり,モナコの王宮に勤める料理長についての番組を見て過ごす...
たまにはビデオでも見るかと選んだのが,ドキュメンタリー作家ニコラ・フィルベールの『La Moindre des choses』 (『ごく些細であたりまえのこと』ととりあえず訳しておきます)。
2年ほど前に『Être et avoir』を見て感動した覚えがあるのだが,それと同じテーマをここでも発見した。<時間>だ。
『La Moindre des choses』はジャン・ウーリーらが設立したラ・ボルドというフランスでも精神医療の分野では有名な診療院を舞台にしたドキュメンタリーだ。映画では,毎年夏休みに行われる診療院祭で上演される芝居の稽古,準備の過程を軸に,ストーリーが展開してゆく。そして,この年の上演作品がなんと,ゴンブロヴィッチの『オペレット』なのである!しかも上演にはゴンブロヴィッチの未亡人も招待されている。
いわゆる精神病を患っている彼らは,一般の人と比べて,すべてが遅い。話すのも,歩くのも,食べるのも,描くのも,パセリを刻むのも,何かを覚えるのも... だがそれだけのことだ。<時間>さえ克服すれば,彼らは一般の人と同様,あるいはそれ以上のことを軽々とやってのける。『Être et avoir 』の小学生たちと一緒だ。
映画は診療院祭での上演までの,患者らの試行錯誤を,彼らの日常風景を交えながら描いてゆく。こういうちょっとだけ引き延ばされた時間を描く上で,今日フィルベールに並ぶものはそう多くはないだろう。フィルベールのカメラはまさしく患者らに寄り添うように,我慢強く彼らの動作を映像に収める。そこで観るものはもう一つの時間,つまり,もう一つの生き方=時間の過ごし方を知る。
さて,芝居だが,素人,しかも精神病者による上演なのでもちろん上演はプロのそれとは大きく異なる。だが,その<下手さ加減>がゴンブロヴィッチのテクストのあり方にとてもうまくあっている。このハチャメチャな上演法がゴンブロヴィッチの追求したものと奇妙に調和しているようなのだ。
上演後,役者として上演に参加した患者の一言にハッとさせられた。「精神病患者を作るのは社会だ。だが,それを直すのも社会だ。」「私はラ・ボルドに送られたのではない,私がら・ボルドにきたのだ。」「ここにいると,守られている気がする。みんな仲間同士(entre nous)だから。[カメラに向かって]いまやあなたも仲間なのです(Vous êtes entre nous )。」
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