『麦秋』あるいは試練としての結婚...

演習1
相変わらず,デパルマのインタビューをちまちま読んでます。辛抱強く,丁寧に...
文法的にも厳しい質問が有ったし(答えられなかった... 調べなくては)。

卒論演習
今日は,昼休も利用して小津安二郎の『麦秋』を見る。
面白い映画...
というか<不気味>な映画だ。
ここまで結婚がネガティヴに描かれている映画も当時としては,珍しいのでは。家族の誰もが,例によって原節子演じる紀子の結婚,幸せを望んでいる。だが,結局,こちらの家族は女を放出する側である。家族の誰もが,彼女の結婚を<耐え忍ぶ>ことになる(それぞれ理由は異なるにせよ)。一方で,<紀子を貰う>(比喩的な意味,そして文字通りの意味で)側の,病気で前妻を失った子持ちの男と母は,大喜び(紀子を嫁に貰うことがが決まった後の,男の母を演じる杉村春子のエネルギッシュなこと!)という構図。世の中は,言葉と金を交換することで成り立っていると同時に,女を交換することで成り立っている,と有名な人類学者が言っていた(と昔友だちが教えてくれて)が,そのことがよく分かる。ラストシーンが,交換で紀子の姉になった兄嫁,交換で家を出ていく紀子の対話で締めくくられているのはその点で,とても興味深い。
彼女が結婚で家を出ることによって,この家族は離散する。結果として,この家の幸福は,結婚もせず,兄夫婦+両親夫婦を物心両面で支えてきた紀子の<献身>,<自己犠牲>(たとえ,彼女をはじめとする登場人物は,この点をはっきりと意識していないにせよ)で成り立っていることが,明らかになってゆく。だから,女子学生の「この映画で描かれている家族は,とても薄っぺら。そのせいでこの映画は好きになれません」というのは,小津映画の特色をかなり巧く捉えている気がする。
たしかに,女性を<お嫁にやる>家庭からすると,できれば結婚なんてしない方が家族みんなの幸せ,というメッセージがかなり濃厚に出ている気がする。
今は<婚活>ブームらしいが,紀子は決して男漁りをしない。この映画は<アンチ婚活>映画にして,<パラサイト礼賛>映画の決定版といえるかも。実際,この映画を見ていると,現在の若くて,収入があるていどある結婚適齢期の人々が結婚したがらない訳が,なんとなく分かった気がします。
結婚であれこれ考える人は必見の映画かも!あなたの結婚観が変わります!