ロベール・ブレッソン『やさしい女』

ストーリーの展開にとって不必要なものをそぎ落とした映画。それがブレッソンの映画という気がする。ユーモアやリリスムの対極にある世界,それがブレッソンの世界だ。
登場人物も必要最低限だ。物語る夫と,主人公である,自殺した妻,そして夫の聞き役であるアンナという年老いた女中。
そうした研ぎ澄まされたナイフのような,無駄のない世界が構築されている一方で,その無駄の削ぎ落とされた世界は,主人公の冷たく神秘的なエロスで満たされる。
計算し尽くされた世界で,主人公の肉体と視線が過剰な挑発として,観客の前に晒される。結果として観客は1時間半文字通り画面に釘付けになる。ある意味で,映画の全てがドミニク・サンダの存在感を絶対的なものにするために貢献しているとも言える。映画という観客の欲望を刺激する装置の極限が,この映画で達成されている。
参考:⭐⭐⭐⭐⭐